山奥でたった一人で暮らす(奈良県吉野町)

旅をすみかとした西行法師がしばらく隠棲したといわれる小さな庵。西行庵までは吉野山を上り詰めた金峯神社で車を降りて、そこから先は少々きつい道を歩いて登る。あいにく庵は改修工事中だった。よい写真がとれるかもしれないと少し期待していたのだが、足場を組んでいたのではどうしょうもない。近くには松尾芭蕉も立ち寄ったという苔清水といわれる湧き水があったので、それを見て帰途につく。しばらく暗い山道を走っていると雨上がりの西の方の空にうっすらと虹がかかっている。虹に近づこうと道をはずれて1kほど下ると周囲の山々が見渡せるとても視界のよい明るい場所に出た。それまで一部しか見えなかった虹が見事な弧を描いて山にかかっていた。

 

一軒の古い民家があって斜面には畑もある。一昔前の風景だ。おばあさんがこちらの方を見ている。何か話してかけているがよく聴きとれない。近づいてあいさつをすると、山のこと水道のこと神社のことなど次々と話されたが、どうもよくわからない。わからないけれどなんだかとても親しく懐かしい。一人で畑をして暮らしているとか。日が暮れると動物たちが畑にくるらしい。畑は鉄の柵で囲っている。大阪から息子がきて作ってくれたらしい。「おばあちゃん一人でさびしくない?夜は真っ暗だね」「一日だれとも話さないことや何日も話さないときもあるよ。ハハ・・」 おばあさんはたった一人だけれど西行のように隠棲しているわけではない、畑をして生活をしているのだ。春がくれば山菜をとり、夏には育てた野菜も収穫するだろう。月に2回は行商もやって来る。