黒猫幻想(愛知県田原市渥美半島)

渥美半島の恋路が浜から帰る途中立ち寄った海辺の古いレンガ造りのレストラン、窓からは海が見える。室内の暗い壁には人物を描いた油彩画がたくさん飾ってあった。少し異様な雰囲気だった。ランプ越しには日暮れていく空と凪いだ海、遠くに漁船の灯りが見えた。外のテラスのテーブルには一人の男が座っていた。どうしてだろう、注文を取りにきたウエイトレスの表情が冷たく死顔のようだった。何も言わないでこちらを虚ろな目で見ている。思わず息をのんだ。店の片隅にあった机の上には一枚の招待状が置かれていた「わたしのこころの叫びを聞いてください。」いったい何だこれは何のつもりだ。宗教の案内だろうか。その店を出てすぐにわたしたちは車の中で互いに先を争うように口を切った。「あの店あなた霊を感じなかった?」「おまえたちも感じた?もの凄くぞっとしたよ。こんな事はじめてだ。霊を感じたよ」車の中から振り返ったときあの女が窓から凍りついたような目でわたしたちを見つめていた